2010/8/24

心が育つ場所

文部科学省から提示されている幼稚園教育要領の冒頭文に「幼児期における教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものである」と書かれています。これは私たち幼児教育に関わる者はもちろんのこと、幼児の育ちに関わるすべての人が忘れてはならないことでしょう。子どもを取り巻く社会環境が変化し、コミュニケーション不足やネットいじめなどという言葉も耳にするようになりました。人と直接に関わる活動の機会と質が、幼児の生活へも大きく影響を与えはじめています。「心」を育てることが大変難しい時代のようにも感じられます。
「心」は私たちに与えられた、かけがえのない贈りものです。しかし、ひとつだけ困ったことがあります。それは「心」が人には見えないことです。心の中の熱い想いを伝えたい……でも、人に「心」は見えません。けれど、これは本当に困ったことなのでしょうか。私の心があなたに見えないから、私は一生懸命にあなたに心を伝えます。あなたの心が見えないから、私はあなたに寄り添って、その心を真摯に見つめたいと思うのです。そのもどかしさは、私の心を苦しめることもあるでしょう。しかし、だからこそ、人は人をわかりたいと努力するのではないでしょうか。
人は相手の心を推し量り、言葉を尽くして心を伝えようとします。だからこそ、そこにかけがえのない絆が芽生え、友を大切にする気持ちが育ち、人を愛する心が生まれてくるのです。もしも人に他人の心を見る力があったなら、こんなにも切なく心をふるわせる想いを抱くことはなかったでしょう。「心」が深く豊かなものにもならないでしょう。詩や小説も生まれてこないでしょう。 「心」とは、とても素敵なものですね。
人を思いやり「心」を伝える方法は、学ばなければ手に入りません。誕生したその日から、こつこつと積み重ねた学びがなければ、手に入らないのです。幼児期はその体験のまっただ中です。「心」はいろんなときに動きます。例えば、園庭の片隅で見つけた虫を友だちと一緒に観察するとき。ごっこ遊びをしていて思わず食い違ってしまい、遊びが進まなくなったりケンカが起きてしまったとき。もう一度遊びたくて努力するとき。砂場で一緒に遊びはじめたけれど、同じイメージ遊べなくて、でも友だちと遊びたいとき。「貸して」「入れて」「やめて」が言えなくて、泣けてしまうこともあります。ここでも、子ども同士の関わりの中で「心」が動きます。大勢の子どもたちのいる集団の中で、その「心」はどんどん広がり、体験を積み重ねていきます。幼稚園では「大丈夫だよ」「そうだね」「よかったね」と寄り添ってくれる保育者がいることで、安心して生活を広げていきます。
子どもたちは「心」を揺さぶられながら、自分の手で人に「心」を伝える方法を学び取っていくのです。これこそが、幼稚園での「学び」の中心であり、人格形成の基礎です。子どもたちの育つ力をしっかりと根気よく応援していきましょう。

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