2014/10/21

けんか

思いやりと気づかいを学ぶチャンス

ある日園内を歩いていると、私の耳に子どもの泣き叫ぶ声が聞こえてきました。声の調子が激しいので、何事かと声のする方に行ってみました。すると、園庭で年少のKくん(3歳)とYくん(3歳)が赤色の三輪車を取り合って譲らず、泣き叫んでいたのです。すでに担任もかけつけていました。どちらかの相手が顔に手を出しそうな時だけは「それはダメ」と止めながら成り行きを見守り、解決のチャンスを待っていました。

子どものけんかは全力!

三輪車は人気の遊具
三輪車は人気の遊具

周りにいた子どもたちも自分の遊びを止めて、二人の様子を心配そうに気にしていました。どうやら赤い三輪車に最初に乗ったのはKくんでした。それを近くにいたYくんがうらやましそうに見ていたそうです。この取り合いは、靴が脱げてしまったKくんが三輪車から降り、はなれて靴をはき直している間に、Yくんが赤い三輪車に乗ってしまったところから始まったのです。
「赤い三輪車はすごい人気だね。あっちに青い三輪車があるんだけど、どうかなあ〜」と声をかけられても耳に入らない様子。どちらも相手を押しのけようと必死な状況でした。私もつい声をかけました。「なるほど、この三輪車は一つしかないね。一つしかない、分けっこできないものは取り合いっこするしかないね。明日の朝までやらないといけないのかなあ〜」と言ってみました。すると、大騒ぎしていた二人の手が一瞬止まりました。全力を出してのけんかなので、二人ともハァハァと肩で息をするほどでした。しかし私の「あれ? ひと休み? けんかって大変だねぇ」という言葉が、再び「ぼくの、ぼくが乗ってたー」の試合開始の合図になってしまいました。

やっぱり、けんかは嫌だな

もうそろそろ食事の時間です。「これは長くかかりそうだから、みんなはお部屋に行きましょう」と周りの子どもに声をかけました。自分の使っていたものを片付けながら、手や足を洗いながら、二人をチラチラ気にしながら、それぞれ保育室へと移動し始めました。すると、Kくんと同じクラスのMくんが「○○先生はね、みんな揃わないとお当番決められないっていうよ。きっと」と教えるようにKくんに声をかけました。そして、YくんのクラスのAちゃんが「○○組だってそうだよ。だからけんかの続きは給食のあとにしてよ……」と続けたのです。私が「心配してくれてありがとう。Kくん、Yくんどうしよう」と聞くと、Kくんが三輪車から手をはなしました。すかさずYくんが乗り込み、二〜三回こぎ出しました。しかし、Yくんもすぐに三輪車からおりて、ハンドルをしっかり持ってKくんや私たちの方を見て「給食を食べてからまたやろう」とカーポートへと三輪車を片付けてくれたのです。Yくんがポツリと「けんかは嫌だな」と言い、部屋に向かいました。私は何も声をかけずに、二人を見送りました。

けんかは嫌なことだと気づく
けんかは嫌なことだと気づく

社会性の根っこが育つ

相手への思いやりや気づかいを学ぶ
相手への思いやりや気づかいを学ぶ

このけんかは、中途半端な終わり方といえばそうです。しかし、私は子どもから学んだ気がしました。私たち保護者も含め、今の大人たちが子どもに人との関係性を教えようとするとき「これはこうしましょう」「あれはこうしましょう」という言葉のやり取りに重きを置きがちです。しかし、幼児期には今回のような子ども同士の全身のやり取りや言葉にしきれない感情体験が、とても大切なのではないでしょうか。
新年度に変わり、KくんもYくんも素敵な年中さんになりました。新しい年中さんがうれしそうに少しいばって、新入園の年少さんをやさしく迎え入れる姿があちこちに見られます。けんかは整理しがたい、ごちゃごちゃした感情体験です。しかし、その過程が相手への思いやりや周りへの気づかいを学ぶチャンスだと思うのです。これは社会性の根っこだと考えます。
もちろん、けがなどには十分に気をつけ、危険のない環境づくりをするのが幼稚園の大事な役割です。保護者のみなさんの思いも、どうぞお聞かせください。大切に愛情をかけ、育つ力をしっかりと応援しましょう。

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